日本の上場企業のなかで、売上の韓国依存度が最も高いのは半導体企業ではない。 ネクソンである。売上の 52.6% を韓国で稼ぐ。次いで ファーストリテイリングの 22.4%。
KOSPI が 33.9% 下落した 2026 年 6 月 22 日から 7 月 28 日までの 25 セッション、ネクソンは 14.5% 上昇した。ファーストリテイリングは 1.9% の下落にとどまった。同じ期間、韓国売上をほとんど持たない アドバンテストは 20.7% 下げている。
韓国の暴落が日本に伝染しているのなら、この並びは逆でなければならない。
01韓国は崩れた。東証は崩れていない
イベント期間の起点は KOSPI が最高値をつけた 6 月 22 日、終点は完全な取引が確認できる最後のセッション 7 月 28 日とした。
KOSPI は 33.9%、KOSDAQ は 27.1% 下落した。サムスン電子 37.8% 安、SK ハイニックス 46.9% 安。レバレッジ ETF の解消とヘッジファンドのデレバレッジ、そしてリテールの追証がこの下げを作ったという説明は、値動きの形と矛盾しない。
日本側を見ると、様子が違う。日経平均は 13.8% 下落した一方、TOPIX の下落は 3.1% にとどまる。Komori リサーチ・エンジン の株価パネルで時価総額上位 1,000 社を測ると、リターンの中央値は 5.0% の上昇である。値上がりした銘柄が 66%、値下がりが 34%。
日経平均と TOPIX のあいだに開いた 10.7 ポイントの差は、市場で起きた出来事ではない。指数の作り方の違いが生んだものだ。日経平均は株価の単純平均に近い構造を持つため、値がさの半導体関連数銘柄の下落がそのまま指数を押し下げる。「日本株が暴落した」という見出しの相当部分は、この計算方法が作った像である。
02損害は一業種に集中していた
業種別に中央値を取ると、下落しているのは 16 業種のうち 5 業種だけだった。
一方で銀行が 10.4%、運輸・物流が 10.6% 上昇している。市場全体が資金を失う局面では、この組み合わせは起こらない。
| 業種 | 銘柄数 | 中央値 |
|---|---|---|
| 鉄鋼・非鉄 | 24 | −14.4% |
| 電機・精密 | 125 | −11.0% |
| 建設・資材 | 86 | −4.4% |
| 機械 | 69 | −2.7% |
| 素材・化学 | 97 | −0.3% |
| 自動車・輸送機 | 41 | +6.6% |
| 小売 | 79 | +8.8% |
| 情報通信・サービス | 147 | +10.0% |
| 銀行 | 63 | +10.4% |
| 運輸・物流 | 45 | +10.6% |
03それは韓国のせいなのか
半導体関連の下落を「韓国からの伝染」と呼ぶには、韓国由来の情報が日本株の下落を説明していなければならない。
一見すると、説明できている。イベント前の 1 年間(2025 年 6 月 2 日〜2026 年 6 月 19 日)で各銘柄の KOSPI 感応度を推定し、業種固定効果と規模、米半導体指数(SOX)への感応度を制御したうえでイベント期間のリターンに回帰すると、KOSPI 感応度の係数は −27.6、t 値は −7.3。韓国感応度の高い銘柄ほど深く下げた、と読める。
ただしこの推定には落とし穴がある。KOSPI は国名を冠した指数だが、中身は半導体指数に近い。KOSPI の日次リターンを、前日の米 SOX と、サムスン電子・SK ハイニックスの平均リターンに回帰すると、決定係数は 0.897 に達する。KOSPI の日々の動きの約 9 割は、米国の半導体市況と韓国メモリ 2 社で説明が尽きる。
つまり「KOSPI 感応度」を測ったつもりで、半導体感応度を測っていた可能性がある。
そこで韓国要因から半導体成分を抜く。前日の SOX に加えて、同一セッションで動くサムスン・ハイニックスの成分も除去し、残差を韓国固有の情報と定義した。この残差への感応度で、同じ回帰をやり直す。
結果は明快だった。韓国固有の感応度の係数は −3.72、t 値 −1.30、p 値 0.194。標準偏差 1 つあたりの効果は −1.00 ポイント、95% 信頼区間は −2.50 から +0.51 で、ゼロを含む。区間の幅は狭く、これは検出力不足の帰無ではない。
同じ回帰でメモリ感応度の係数は −60.8(t 値 −9.81)、SOX 感応度は −39.8(t 値 −7.89)。標準偏差 1 つあたりに直すとメモリが −7.4 ポイント、SOX が −4.6 ポイント。韓国固有要因の −1.0 ポイントとは桁が違う。業種固定効果の粗さを疑って電機・精密の 125 社だけで推定し直しても、韓国固有要因の t 値は −1.56 にとどまり、メモリ感応度は −5.61 のまま変わらない。
日次データでも同じ結論になる。イベント期間の電機・精密 124 銘柄のパネルに、TOPIX・前日 SOX ・メモリ要因を入れたモデルを組み、そこへ韓国固有要因を追加しても、決定係数の増分は 0.0000、F 値 0.02、p 値 0.887。韓国固有の情報は、日本の半導体株の値動きを 1 ミリも説明しない。
冒頭のネクソンに戻る。財務データから測った韓国売上比率とイベント期間リターンの相関は +0.571。韓国依存度が高い企業ほど、よく持ちこたえた。市場推定のベータと企業の実売上という独立した 2 つの測り方が、同じ方向を指している。
04売却は無差別ではなかった
デレバレッジという言葉は、投げ売りの無差別さを連想させる。この局面ではそうならなかった。
電機・精密と機械の 193 社について、イベント期間のリターンをイベント前のファクター感応度に回帰すると、決定係数は 0.600 に達する。メモリ感応度とリターンの相関は −0.745。どの銘柄がどれだけ下げるかは、危機が始まる前の感応度でおおむね決まっていた。
当初我々は、韓国固有のリスクをほとんど持たないのに深く売られた「無差別売却の被害者」を抽出するつもりでいた。事前に登録したスクリーンをかけると、条件を満たす銘柄は 1 社しか残らなかった。抽出したい対象が存在しなかったのではなく、無差別な売却そのものが起きていなかったからである。
05資金はどこへ行ったか
ただし、この「回転」を過大に語るべきではない。事前に登録した検定では、業種間のばらつきがヒストリカルに見て極端かどうかを問うた。イベント期間の四分位範囲は 15.6 ポイントで、過去の同じ長さの窓の中央値 10.2 ポイントを上回るものの、89.7 パーセンタイルにとどまる。95 パーセンタイル超という事前基準は満たさない。方向としての回転は明確だが、その激しさは前例のない水準ではなかった。
また本稿は資金の実際の流れを観測していない。回転とは相対リターンの記述であって、フローの証拠ではない。
06四つのバスケット
分析を投資可能な形に落とした 4 本を、Komori リサーチ・エンジン で 2009 年 2 月から 2026 年 5 月までバックテストした。イベント期間のリターンは外部の価格データで別途測っている(エンジンの内部データは 5 月 29 日で終わるため、両者は接続していない)。
| バスケット | 銘柄数 | 17.3年倍率 | CAGR | 最大DD | イベント期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 回転受益:半導体を持たない日本 | 15 | ×7.9 | 12.7% | −29.3% | +6.3% |
| 過剰売却:ファクターを超えて売られた銘柄 | 10 | ×17.2 | 17.9% | −54.1% | −40.1% |
| 韓国依存エクスポージャー | 11 | ×46.6 | 24.8% | −42.8% | −17.2% |
| AI設備投資コンプレックス | 15 | ×85.5 | 29.3% | −48.9% | −30.2% |
AI 設備投資コンプレックスは 17 年で 85 倍、年率 29.3% で複利成長した。そして 25 セッションで 30.2% を返した。この 2 つの数字は同じリスクの表と裏である。半導体シクリカルを保有するとは、こういう資産を保有するということだ。
韓国依存バスケットは、推奨ではなく反証セルをそのまま投資可能にしたものである。韓国売上を開示している企業を集めると、韓国が暴落した局面で 17.2% の下落。全体で 30.2% 下げた AI 設備投資バスケットより浅い。韓国への売上エクスポージャーは、韓国株安に対する防御にも脆弱性にもならなかった。
07限界
イベント期間は 25 セッションしかない。すべての推定は低検出力であり、そのつもりで読む必要がある。ただし本稿の中心的な帰無(韓国固有要因の無効果)は、信頼区間が狭く、点推定がゼロ近傍にある形の帰無である。
Komori の地域別売上データは現在 3,691 社中 202 社の充足にとどまり、韓国を明示的に開示する企業は 11 社しかない。この 11 社は市場推定ベータの裏付けとしては機能するが、単独で断面検定を支えられる規模ではない。加えて比率フィールドが未投入であったため金額から再計算し、単位の不整合が見られた 1 社は使用対象から外した。
価格はベンダー配信の調整済み終値を用いた。Komori 内部パネルと重複する期間で 998 銘柄を突き合わせたところ、日次リターンの相関中央値は 0.9979、乖離の中央値は 0.0 ベーシスポイントだった。
バスケットは今日のデータで定義したものであり、過去に同じルールで運用できたという主張はしない。事前登録は 2026 年 7 月 29 日にコミット 7c36c39 で確定した。記述統計の走査を先に行った事実と、その後で確定した検定の内訳は、事前登録文書の冒頭に明記してある。
08結論
韓国で起きたことは、日本に伝染しなかった。
伝染していないのに日本の半導体株が 3 割下げたのは、韓国と日本が同じものに晒されているからである。両者は伝播の関係ではなく、並列の関係にある。上流にあるのは世界的な半導体・AI 設備投資サイクルの再価格付けであり、KOSPI はその指数のひとつにすぎない。米国株が 0.5% しか下げず、SOX が 24.6% 下げたという事実が、この解釈を裏づける。マクロのリスクオフではなく、一つのテーマの再評価だった。
「韓国ショックの東証への波及」という問いの立て方そのものが、地理を因果と取り違えている。市場を国名で括ると、国名がファクターの別名にすぎない場合に、存在しない伝染経路を見てしまう。
そして東証には、その再価格付けの外側に、上昇した銘柄が 66% ある。
—参考文献と方法
対象は東証プライム・スタンダード・グロースのうち時価総額上位 1,000 社。時価総額は イベント開始前(2026 年 5 月末)時点で測り、先読みを排している。ベースラインは 2025 年 6 月 2 日〜2026 年 6 月 19 日、イベント期間は 6 月 22 日〜7 月 28 日。 韓国要因は KOSPI を前日の SOX と同一セッションのサムスン・SK ハイニックス平均に 回帰した残差として定義し、半導体成分を除いた。日本と韓国は同一時間帯で取引されるため KOSPI は同時点、米国市場は前日として整合させている。断面回帰は業種固定効果と対数時価総額を 制御し、標準誤差は White (1980) の不均一分散頑健推定(HC1)。バスケットのバックテストは Komori リサーチ・エンジン による実測で、年率は成長曲線から幾何的に算出した。仮説・推定量・判断基準は 分析前に確定し、コミット 7c36c39 で固定した。
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- Bekaert, G., Harvey, C. R., and Ng, A. (2005). Market integration and contagion. Journal of Business 78(1).
- Kaminsky, G. L., Reinhart, C. M., and Vegh, C. A. (2003). The unholy trinity of financial contagion. Journal of Economic Perspectives 17(4).
- Politis, D. N., and Romano, J. P. (1994). The stationary bootstrap. Journal of the American Statistical Association 89(428).
- White, H. (1980). A heteroskedasticity-consistent covariance matrix estimator and a direct test for heteroskedasticity. Econometrica 48(4).